「海外の本社では、いつも発酵バターを作っている。日本でも同じ設備を準備すれば、許可はすぐに取れるはず」
そう考えて準備を始めたものの、保健所(食品の安全をチェックする役所)から「本当にこの工程で安全に作れますか?」と厳しい質問を受けてしまう…。
こうしたケースは、実はよくあります。
なぜなら、乳製品(牛乳やバター、チーズなど)を作る許可は、数ある食品営業許可の中でも特に基準(きまり)が厳しいからです。
「設備(ハード)」と「管理の仕組み(ソフト)」の両方で、高い専門性が求められます。
この記事では、製造の実務経験がない状態から「乳製品製造業」の許可を取得した事業者様の事例をもとに、審査を突破するための具体的な対策をわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
・発酵バター作りに必要な「乳製品製造業」許可の、厳しい設備基準のポイント
・保健所の担当者が重視する「HACCP(ハサップ)」という衛生管理の仕組みに基づいた、温度管理の実務
・「書面だけの知識」を「現場で使える知識」に変えるための、研修とシミュレーションの重要性
1.ご相談内容
■ 保健所からの厳しい質問
今回ご相談くださったのは、発酵バターの製造・販売を計画している事業者様です。
保健所へ「乳製品製造業」の事前相談(許可申請の前に行う相談)に行ったところ、担当者からこう言われてしまいました。
「機械の性能や製造工程、そしてHACCP(衛生管理の仕組み)の面で、本当に安全な発酵バターが作れますか?大丈夫ですか?」
実現できるかどうかを、根本から問われてしまったのです。
どう答えればよいかわからず、困り果てて当事務所へご相談に来られました。
2.課題
■ 3つのポイント
(1)よくある誤解:海外と同じ設備でOKという思い込み
最大の誤解は、「海外の本社で実績があるから、日本でも同じ機械を並べれば許可が下りるはず」という思い込みでした。
しかし、日本の食品衛生法には、日本独自のルール(施設基準・規格基準)があります。
海外のやり方をそのまま持ち込むだけでは、通用しないことが多いのです。
(2)ご相談前のお悩み:現場を見たことがない不安
申請担当のスタッフ様は、発酵バターの製造工程を「書面」や「動画」でしか知らず、実際の製造現場に立ち会った経験がありませんでした。
「見たこともないものの、衛生管理の計画を立てなければならない」という大きな不安を抱えていらっしゃいました。
(3)実務上の注意点:経験なしでの申請はリスクが高い
自ら製造した経験がないまま申請を進めるのは、実務上とても危険です。
食品衛生法の実務でも、申請者には「安全な製品を、継続してきちんと作り続けられる技術力」が求められるからです。
要するに、保健所は「書類がきちんと整っているか」だけでなく、「本当にその通りに作れるか」までチェックしている、ということです。
3.対応
■ 3つのステップでサポート
事態を打開するため、当事務所では次の3つのステップでサポートを行いました。
ステップ1:製造工程のシミュレーション
ご相談者様と一緒に図面を確認しながら、原材料の入荷から、ろ過、殺菌、発酵、冷却、充填(じゅうてん:容器に詰めること)、包装まで、すべての工程を一つひとつ確認しました。
これにより、どの工程で、どんな設備や備品が足りないのかが、はっきりと見えてきました。
ステップ2:HACCPに基づいた温度管理の見直し
発酵バターは、温度の変化が品質と安全性に直結する商品です。
原材料、仕掛品(しかかりひん:製造途中の半製品)、完成品を、それぞれ適切な温度(冷蔵なら10度以下など)で保管できる設備を配置しました。
さらに、その温度を毎日どう記録するか、温度がおかしくなったときにどう対応するかという運用ルール(ソフト面)を、HACCPの考え方に基づいて作りました。
ステップ3:海外本社での実地研修
「製造経験がない」という不安をなくすため、申請担当のスタッフ様には、1週間ほど海外の本社工場へ出張していただきました。
実際の製造工程を自分の目で見て、衛生管理のポイントを体で学んでいただきました。
これにより、保健所の検査のときに、「自分の言葉」で管理方法を説明できるように準備が整いました。
4.結果
■ 無事に許可を取得
設備面(ハード)の基準クリアと、技術力やHACCP計画(ソフト面)の証明、この両方が揃ったことで、保健所の不安を解消することができました。
結果として、難関である「乳製品製造業」の許可を無事に取得し、日本国内での発酵バター製造をスタートすることができました。
5.注意点
■ 許可後も温度管理は続く
許可が取れたからといって、安心はできません。
特に乳製品の温度管理は、営業を続ける限り、ずっと守らなければならない法律上の義務です。
HACCPの記録を一日でも怠ると、保健所の立入検査(現場をチェックする調査)で指導を受けることになります。
最悪の場合、許可が取り消されることもあります。
要するに、「許可は取って終わり」ではなく、「許可を取った後も、毎日の温度チェックを続けること」が法律で求められているということです。
6.行政書士としての視点
■ 事前相談の大切さ
今回のケースでは、事前相談で保健所から「ガッツリ」厳しい指摘を受けたことが、結果的に良い方向に進みました。
その指摘があったからこそ、事業者様も「今のままではいけない」と気づき、素直に実地研修や設備の見直しに取り組んでいただけたのです。
内装工事が始まってしまうと、後から直すのが難しくなることも多いです。
だからこそ、図面の段階で行う「事前相談」が、いちばん大切な工程だと改めて感じました。
7.食品商社勤務時代の経験から見た注意点
■ 冷蔵管理の難しさ
前職の食品商社では、数多くのチルド商品(冷蔵で運ぶ商品)を扱ってきました。
その経験から言えるのは、冷蔵品の温度管理は、冷凍品よりもずっと気を使うということです。
冷凍品は、とにかく凍った状態を保てばOKです。
しかし冷蔵品は、「凍らせてはいけない」けれど「ある温度を超えてもいけない」という、とても狭い範囲での管理が必要です。
これは工場の冷蔵庫だけの話ではありません。
お客様の手元に届くまでの配送(冷蔵輸送)でも、同じように気を使う必要があります。
発酵バターは、食卓に届くまで一瞬も気が抜けない、まさに「生きている」商品だと言えるでしょう。
まとめ・次のステップ
いかがでしたでしょうか?
発酵バターやチーズなど、乳製品の製造は、他の食品に比べてハードルが高いのは事実です。
しかし、「正しい設備(ハード)」と「現場に合った管理計画(ソフト)」を一つずつ積み上げていけば、必ず道は開けます。
・「うちの図面で、乳製品製造の基準を満たせるか不安だ」
・「HACCPの計画書、バターのどの工程をどう管理すればいいかわからない」
このようなお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ当事務所へご相談ください。
食品行政の専門家である行政書士が、保健所との話し合いから現場での運用サポートまで、あなたの「バター工房」を作る夢をしっかりサポートいたします。
発酵バターの製造許可申請や、乳製品特有のHACCP対応でお困りの場合は、お気軽にお問い合わせください。
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