「アメリカへ日本酒を輸出したいけれど、まだ買い手(輸入者)が決まっていない。それでもFDA登録(アメリカの食品関連施設が必ず行う登録手続き)はできるのだろうか?」
「輸出の契約が正式に決まってから登録すればいいのでは?」
初めてアメリカ輸出に挑戦する日本酒の輸出者様にとって、手続きを「いつやるか」というタイミングは、とても悩ましい問題です。
「買い手が決まっていないのに、お金や手間をかけるのは早すぎるのでは……」とためらっているうちに、せっかくの商談チャンスを逃してしまうことも少なくありません。
この記事では、実際にいただいたご相談事例をもとに、FDA登録と米国の輸入者との関係、そして商談を成功させるための「先回りの準備」について、専門の行政書士がわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
・FDA登録のときに、「米国の輸入者(バイヤー)」の情報は必要なのか、という実務上の答え
・「米国代理人」と「輸入者」を混同すると、商談のときに大きな遅れが出てしまう理由
・お酒の輸出ならではの「免許」の壁と、FDA登録を早めに済ませておくべき経営上の理由
1.ご相談内容
■ 輸入者が未定でも登録できる?
初めてアメリカ市場への進出を検討されている日本酒の輸出者様から、次のようなご相談をいただきました。
「現在、アメリカの複数のバイヤーと商談を進めています。どこと契約するかはまだ決まっていませんが、多くのバイヤーから『FDA登録は済んでいますか?』と聞かれます。
FDA登録をするときには、最終的に荷物を受け取る『アメリカの輸入者』の情報を、システムに入力する必要があるのでしょうか? もし輸入者を先に決めておかなければならないなら、契約が決まるまで登録は待つしかないと思っているのですが……」
2.課題
■ よくある誤解が、商談の足を引っ張る
この輸出者様が悩まれていた背景には、実務上のよくある「誤解」と「不安」がありました。
・「契約後」という思い込み:
輸出の契約が正式に決まって、送り先が確定してから、FDA登録を申請するものだと思い込んでいらっしゃいました。
・登録が必要かどうかの迷い:
輸入者が決まっていない段階で登録の作業を進めることに、実務上の必要性を感じられずにいました。
・商談での優先順位:
アメリカのバイヤーは、「FDA登録が済んでいること」を前提として話を進めます。
仕入先の酒蔵が決まっているのであれば、登録は商談の「後」ではなく「前」に済ませておくのが、実務上の鉄則(基本ルール)です。
3.対応
■ 登録に必要なのは「米国代理人」だけ
私は輸出者様に対して、「FDAの施設登録において、アメリカの輸入者(バイヤー)の情報を入力する必要は一切ありません」とご説明しました。
FDAのシステムで登録時に求められるのは、あくまで、その施設(酒蔵や倉庫)の責任者の情報と、アメリカ国内に拠点を置く「米国代理人(U.S. Agent)」の情報だけです。
米国代理人とは、FDAからの緊急の連絡や、査察(現地での立入調査)の通知を受け取るための「窓口」のことです。ビジネス上の取引相手である「輸入者」とは、まったく別の役割を担います。
つまり、バイヤーが誰になるかにかかわらず、施設登録そのものは、いつでも進めることができるのです。
4.結果
■ バイヤーが未定のまま登録完了!
ご説明を受けた輸出者様は、すぐに仕入先メーカー(酒蔵)の承諾を得て、弊所のサポートのもとでFDA施設登録の手続きを進められました。
結果として、アメリカの輸入者をどこにするか決まっていない段階で、無事に11桁の施設登録番号を取得することができました。
これにより、その後の商談でバイヤーから登録状況を聞かれた際にも、すぐに番号を提示することができました。
「コンプライアンス(法令順守)が整った、信頼できる輸出者」として、商談は非常にスムーズに進み、成約へとつながりました。
5.注意点
■「米国代理人」と「輸入者」を混同しない
ここで、とても大事な注意点があります。
それは、FDA登録における「米国代理人」と、商品の発送・輸送における「輸入者(荷物の受取人)」を、混同しないことです。
バイヤーが「米国代理人も引き受けます」と言ってくれる場合もありますが、その場合でも、彼らが担う「FDAに対する法的な責任」と、「商品を買い取ること」は、別々の合意として整理しておく必要があります。
将来的にバイヤー(輸入者)を切り替えることになっても、米国代理人を独立した専門家にお願いしておけば、施設登録はそのまま維持することができ、輸出が途切れてしまうリスクを避けることができます。
6.行政書士としての視点
■ FDA登録は「事前のパスポート」
行政書士として多くのご相談に対応してきた経験から言えるのは、「FDA登録は事前(前もって)の手続き、商品の発送はそのときどきの手続き」という切り分けです。
実際に具体的な契約交渉が始まると、ラベルの作成や輸送の手配などで、現場はあっという間に手一杯になります。
そのタイミングで「実はFDA登録がまだでした」となると、登録完了(特に米国代理人の承認作業)を待っているあいだに、バイヤーの熱意が冷めてしまったり、通関(輸出入の手続き)に間に合わなくなったりすることがあります。
仕入先のメーカー(酒蔵)が決まった段階で、アメリカ市場への「パスポート」であるFDA登録を済ませておくこと。
これが、ビジネスチャンスを確実につかむための「守りの実務」になります。
7.食品商社勤務時代の経験から見た注意点
■ お酒の輸出にある「二重の壁」
私は以前、食品商社に勤務していたとき、日本酒の輸出を数多く担当してきましたが、お酒の運送は、他の食品に比べてかなり手続きが面倒です。
FDA登録はもちろんですが、それ以前に、「輸出者が日本酒の輸出免許を持っていること」と「輸入者が現地(連邦および州)の輸入免許を持っていること」が、絶対の条件になります。
運送業者(フォワーダー)に輸送をお願いするときには、この両方の免許の提示を厳しく求められます。
どちらか一つでも欠けていると、荷物を集荷してもらうことすらできません。
FDAの手続きに気を取られすぎて、こうした「お酒特有の免許の確認」を後回しにしてしまうと、いざ出荷という段階で慌てることになります。
日本酒の輸出は、とても丁寧な事前準備が求められる世界なのです。
まとめ・次のステップ
いかがでしたでしょうか?
今回の事例から学べることは、「商談の成約を待たずに、FDA登録は進めておくべき」ということです。
・FDA登録に、「アメリカの輸入者(買い手)」の情報は不要
・必要なのは「米国代理人」であり、これはバイヤーとは別に用意できる
・前もって登録を済ませておくことが、バイヤーからの信頼につながる
・日本酒の輸出には、FDA登録のほかにも、お酒の免許の確認という高いハードルがある
「自社の酒蔵の登録を、今すぐ進めたい」
「信頼できる米国代理人を、どう手配すればいいか相談したい」
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