「アメリカのバイヤーから書類の不備を指摘されたのに、酒蔵が忙しくて動いてくれない……」
「英語の壁もあって、これ以上酒蔵に頼むと取引自体が壊れてしまいそうだ」
「バイヤーと酒蔵の板挟みで、このままでは輸出ビジネスそのものがなくなってしまう」
日本酒をアメリカへ届けている輸出商社の経営者として、今まさにこのような深刻な状況に直面されていることと思います。
じつは、この問題を解決するカギは、「酒蔵に書類を直してもらう」ことではありません。
商社自身が書類の取りまとめ役になること、これが唯一の突破口です。
この記事では、その具体的な方法を、アメリカへの食品・お酒の輸出手続きに詳しい行政書士の立場から、わかりやすくお伝えします。
【この記事でわかること】
✔ そもそも「FSVP」とは何か、なぜ今これほど問題になっているのか
✔ 酒蔵が協力してくれない本当の理由と、協力を引き出す提案の仕方
✔ 商社が書類の取りまとめ役になることで得られる、3つの大きなメリット
1.結論:商社が書類を整える
結論を一言でいいます。
「商社が、アメリカのルールに合わせた書類を自分たちで整えて、バイヤーに渡す体制をつくる」
これが、今の板挟み状態を抜け出す最善策です。
酒蔵に「書類に不備があるので直してください」とだけ伝えても、なかなか動いてもらえません。
繁忙期の現場では酒造りが最優先ですし、英語の書類となればなおさら手が止まります。
そこで商社が一歩踏み込んで、酒蔵にはこう提案します。
「アメリカのルールに合わせた日本語のチェックシートをわが社で用意します。
蔵元さんは確認してサインするだけでOKです。
英語への翻訳とバイヤーへの説明はすべてわが社で引き受けます」
この提案ができれば、酒蔵は「やってもらえるなら助かる」と感じ、協力的になります。
そしてバイヤーには、書類が整った状態で届けられる。この流れを作ることが大切です。
2.商社のメリット
■ そもそも「FSVP」とは何ですか?
FSVPとは、「外国供給業者検証プログラム」のことです(英語:Foreign Supplier Verification Program)。
要するに、「アメリカに食品を輸入するなら、相手の製造元が安全基準をきちんと守っているか、自分で確認して記録を残してください」というアメリカのルールです。
この義務を負うのはアメリカのバイヤー(輸入業者)です。
ただし、実際の確認作業には、日本の製造元(今回の場合は酒蔵)が発行する書類が必要です。
だからこそ、バイヤーが日本の商社に「書類を用意してほしい」と繰り返し連絡してくるのです。
バイヤーはルールを守らなければ、最悪の場合、アメリカでの輸入が禁止されてしまいます。だから必死なのです。
■ 酒蔵が協力してくれない本当の理由
酒蔵が書類の修正に消極的なのは、「不誠実だから」ではありません。
①英語の書類への苦手意識
アメリカ特有のルール(アレルゲン管理や供給業者の検証など)は、日本の食品業界では聞き慣れない言葉ばかりです。
英語で記録を求められると、そもそも何を書けばいいかわからず、手が止まってしまいます。
②仕込みの繁忙期
酒蔵にとって、仕込みの時期は一年で最も忙しい季節です。
この時期に事務作業を頼んでも、「今はそれどころではない」というのが正直なところです。
③「なぜ日本の基準では足りないのか」という疑問
日本のHACCP(食品衛生の管理基準)を導入している酒蔵では、「うちはちゃんと管理しているのに、なぜ追加の書類が必要なのか」と感じることもあります。
これらの壁を取り除く役割を担えるのが、まさに商社です。
■ 商社が取りまとめ役になる 3つのメリット
メリット① 酒蔵の負担が大幅に減る
酒蔵にお願いするのは、「日本語のチェックシートへの記入と確認」だけにします。
英語への翻訳もアメリカのルールへの対応も、商社が引き受けます。
これにより、酒蔵は「良い酒を造ること」だけに集中できます。
メリット② バイヤーからの信頼が一気に高まる
商社がまとめた書類をバイヤーに渡す際、「弊社で酒蔵の衛生管理状況を確認・整理し、アメリカの基準を満たしていることを確認済みです」という一言を添えます。
これだけで、バイヤーの検証作業が大幅に楽になります。
商社が「なくてはならないパートナー」として評価されるようになります。
メリット③ ビジネスが安定・継続できる
書類の不備が続くと、バイヤーとの信頼関係が壊れ、最悪の場合は取引終了になりかねません。
商社が書類管理を一元化することで、こうしたリスクを未然に防ぎ、輸出ビジネスを安定して続けることができます。
■ 実際の進め方(4つのステップ)
ステップ1:酒蔵への提案
「アメリカのルールが変わっており、今のままでは通関で止まるリスクがあります。
蔵元さんの手間を最小限にするため、わが社で日本語のチェックシートを準備しました」と伝えます。
押しつけではなく、酒蔵を助ける姿勢で提案することが大切です。
ステップ2:日本語テンプレートの作成
酒蔵にゼロから書類を作らせるのではなく、商社側で日本語のひな形を用意します。
清掃記録・製造工程・原材料の安全性など、必要な項目をあらかじめ入れておき、酒蔵には「事実を記入する」だけにしてもらいます。
ステップ3:バイヤーへのパッケージ提供
まとめた書類に「弊社で確認済み」という説明を添えてバイヤーへ送ります。
単なるデータの転送ではなく、「商社が責任を持って整えた書類」として提供することがポイントです。
ステップ4:定期的な更新の仕組みづくり
FSVPの書類は一度作れば終わりではなく、定期的な更新が必要です。
商社側で管理カレンダーを作り、繁忙期を避けたタイミングで確認・更新する仕組みを整えておきましょう。
3.注意点・よくある落とし穴
■ 注意点:よくある落とし穴
落とし穴① 「清酒だからFSVP不要」は必ずしも正しくない
通常の清酒は対象外になる場合が多いですが、果汁入りのリキュールや特定の成分を含む飲料は対象になることがあります。
品目ごとに「対象か否か」を正確に確認することが必要です。
落とし穴② 英語の会社名・住所の「1文字の違い」が命取り
FDA(アメリカ食品医薬品局)の登録書類とFSVPの書類で、会社名や住所の英語表記が少しでも違うと、「別の会社」とみなされて書類が弾かれます。
英語に不慣れな酒蔵任せにせず、商社が必ずダブルチェックをしてください。
落とし穴③ 「日本のHACCP」とアメリカの基準は別物
「うちはHACCPを導入しているから大丈夫」と酒蔵が思っていても、アメリカの基準(PCHF:予防管理)とは細部が異なります。
特に「アレルゲン管理」の記述が不足しているケースが多く、ここを補完せずにバイヤーに書類を渡すと、再度の修正依頼が続いてしまいます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今の板挟み状態を抜け出すために、商社がとるべき行動をまとめます。
✔ 酒蔵には「日本語のテンプレート」を提供して、英語とルールの壁を取り除く
✔ バイヤーには「商社が確認・整理済みの書類」をパッケージとして届ける
✔ 会社名・住所の英語表記など、細かい点まで商社が責任を持って管理する
この3つを実践することで、酒蔵からもバイヤーからも信頼される「なくてはならない商社」になることができます。
「酒蔵への提案に使える具体的な資料を作ってほしい」
「自社の商品がFSVPの対象になるか確認してほしい」
「複数の酒蔵の登録状況をまとめて管理したい」
このようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
当事務所では、FDA登録状況の確認から、FSVPに対応した書類のひな形作成、バイヤーとの英語でのやり取りのサポートまで、アメリカへの食品・お酒の輸出に詳しい行政書士として全面的にお手伝いしております。
板挟みの苦しさから抜け出し、貴社が「酒蔵にもバイヤーにも頼られる存在」として飛躍できるよう、全力でサポートいたします。
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