飲食店を開業して1か月。
お店の切り盛りにも、少しずつ慣れてきた頃でしょうか。
飲食店経営の第一歩を踏み出された皆様、本当におめでとうございます。
飲食店の許可申請と経営をサポートしている行政書士です。
開店時に意気込んで始めた「HACCP(ハサップ)」。
でも、実際に営業が始まってみると……
「忙しくて記録を忘れてしまう」
「スタッフによって書き方がバラバラ」
「結局、自分一人だけが焦っている」
……こんな悩み、ありませんか?
じつは、開業1か月目というのは、HACCPが「単なる書類作業」になるか、「お店を守る強力な武器」になるかの、大事な分かれ道です。
この記事を読むと、こんなことがわかります。
【この記事でわかること】
✔ スタッフのやる気を引き出す「なぜHACCPが必要か」の伝え方
✔ 「記録忘れ」を防いで、習慣化させるための現場の工夫
✔ 月1回の「振り返り」を、お店の利益につなげる具体的な方法
1.結論:HACCPは「チーム」で回す
最初に結論をお伝えします。
小規模な飲食店でHACCPの運用を向上させる、最大の鍵はただ一つ。
「店主一人で抱え込まず、スタッフ全員を巻き込んだ仕組みにすること」です。
HACCPは、衛生管理を「見える化」する仕組みです。
店主だけが把握していても、意味がありません。
スタッフ全員が「どこにリスクがあるか」を理解して、同じ基準で動けるようになって初めて、
お店の安全は本当に守られます。
2.HACCP運用の壁と底上げ
■ 概要:開業1か月で見えてきた「運用の壁」とは?
そもそも「HACCP(ハサップ)」とは何でしょうか?
食中毒などの事故が起きないよう、調理の工程で「どこが危ないか」をあらかじめ予測し、重点的にチェックして記録する衛生管理の手法です。
小規模な飲食店では、難しい科学分析は必要ありません。
厚生労働省が公表している「手引書」に沿って、自分のお店に合った「計画」を立てて、毎日「記録」をつければOKです。
ただ、開業直後の忙しい現場では、記録や報告の手間が重荷になり、「なんとなくやっているだけ」になりがちです。これを「形骸化(けいがいか)」といいます。
要するに、実態の伴わない書類作業になってしまう状態のことです。)
この壁を乗り越えるには、運用の「底上げ」が必要です。
■ 具体的なステップ:運用を向上させる3つのコツ
では、どうすれば運用を一段上のレベルへ引き上げられるのでしょうか?
具体的なステップを3つ、順番に解説します。
【ステップ1】「なぜやるか」をスタッフと共有する
――まず、目的を伝えることが最初の一歩
スタッフが記録を忘れたり、適当に書いたりするのは、「この作業が誰のためになるか」を理解していないからです。
HACCPは単なる義務ではありません。
「お客様の安全を守り、同時にお店とスタッフ自身を守るためのお守り」であることを、言葉で伝えましょう。
たとえば、こんなふうに話してみてください。
「食中毒が出たら、お店は続けられなくなる。でも、毎日この記録をしっかりつけていれば、私たちが誠実に仕事をしていた証拠(証明書類)になる。」
リスクとメリットを具体的に伝えることで、スタッフに「食の安全を守る意識」が育まれていきます。
実際、HACCPを導入した飲食店の約81.6%が、「従業員の意識が向上した」と回答しています。(調査データより)
【ステップ2】記録を「楽に」「確実に」できる仕組みをつくる
――「書くのが面倒」をなくす工夫
記録忘れを防ぐには、スタッフが「わざわざ記録しに行く」という余計な動作をなくす工夫が大切です。
具体的には、こんな方法が効果的です。
・冷蔵庫の横に、温度チェック表を貼っておく
・盛り付けスペースの目の前に、手洗い確認シートを置く
・「良・否」を丸で囲むだけの、シンプルな様式に統一する
記録用紙は、「目に入る場所」に「置いておくだけ」で、忘れる回数がぐっと減ります。
また、手引書の内容が難しい場合は、イラストを多用した簡略版を使うのも一つの方法です。
外国人スタッフがいる場合は、多言語版のリーフレットも活用できます。
【ステップ3】月に一度、チームで「振り返り」を行う
――記録は「見返す」ことで初めて意味をもつ
記録をつけるだけで終わらせないことが大切です。
月に1回程度、店主とスタッフで記録を見直す時間を設けましょう。
振り返りの際は、次のポイントを確認してください。
・「否(問題あり)」がついた時、どう対処したか?
例:冷蔵庫の温度が高かったので設定を調整した、など
・同じミスが繰り返されていないか?
例:Aさんがいつも手洗いを忘れがちなら、その原因と対策を一緒に考える
・新しいメニューや設備が増えていないか?
(計画の見直しが必要なサインです)
この振り返りを丁寧に続けると、スタッフは「自分の記録がちゃんと見られている」と実感します。
すると、報告の精度が自然と上がっていきます。
また、食材の在庫管理が徹底されることで、食品ロスの削減など、経営面でのメリットにも気づけるようになります。
3.注意点・失敗例
運用を向上させる上で、特に気をつけてほしい「失敗パターン」を3つご紹介します。
【失敗例1】まとめて後から記録する
営業終了後や、数日分をまとめて「全部『良』だっただろう」と推測で書き込むのは、NGです。
HACCPの目的は「その場その場の状況を正確に記録すること」。
まとめ書きでは、万が一事故が起きた時に、お店を守る証拠になりません。「その場で、その都度」を鉄則にしてください。
【失敗例2】不備があった時に「隠す」
冷蔵庫の温度が基準を超えていたことを、「怒られるかも」と思って「良」と書いてしまうスタッフがいるかもしれません。
しかし、これは非常に危険です。
HACCPで最も価値があるのは、「問題が起きた時に、どう適切に対処したか」という記録です。
「正直に不備を書いて、対処したことを褒める」文化を、店主が率先してつくってください。
【失敗例3】計画を一度作ったらそのままにする
季節が変わってメニューが入れ替わったり、新しい調理器具を導入したりしても、開業時の計画のまま運用を続けていませんか?
メニュー・原材料・設備が変わった時は、必ず衛生管理計画を見直す必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
開業1か月目は、理想と現実のギャップに悩む時期です。
でも、今ここで運用のコツを掴めば、HACCPはお店を強くする最強のツールになります。
HACCPは、続けることで「品質・安全性の向上」だけでなく、「スタッフの意識向上」や「店舗イメージのアップ」にもつながります。
「自分のメニューに合わせた具体的な指導方法が知りたい」
「スタッフ向けの研修をどう進めればいいかわからない」
そんなお悩みがあれば、ぜひ行政書士にご相談ください。
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