先日、食品メーカーの販売部長様からこんなご相談をいただきました。
「海外バイヤーから『自己証明制度を使えば、商工会議所に行かなくても、自分で原産地証明書が作れる』と聞いた。そんなに都合のいい話があるのか?虚偽の申告が横行しないのか?」
とても切実なご相談です。
結論から申し上げます。
この制度は現代の貿易における「国際標準」であり、正しく理解して活用すれば、コストと時間を大幅に削減できる強力な武器になります。
ただし、部長がご心配の通り、「自分で作れる=何を書いてもいい」わけでは、決してありません。
【この記事でわかること】
✔ 自己証明制度が使える国・協定はどこか
✔ 自社で原産地を証明するための3つの必須条件
✔ 虚偽申告を防ぐ「事後確認」の仕組みと、書類保存のルール
この記事を読むと、煩雑な手続きのポイントが整理され、海外バイヤーとの商談に自信を持って臨めるようになります。
また、税関調査のリスクを事前に知ることで、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。
輸出の手続に詳しい専門家の行政書士がわかりやすくお伝えします。
1.自己証明制度は国際的な正式ルール
まず、部長が一番気にされていた「本当に認められている制度なのか?」という点から確認しましょう。
答えは「はっきりYES」です。
「輸出者自己申告制度」という名称で、日本が締結している多くの経済連携協定(EPA)に正式に盛り込まれています。
もともと貿易では、商工会議所などの公的機関が証明書を発行する「第三者証明制度」が一般的でした。
しかし近年は、輸出入の実態を一番よく知っている当事者が自ら証明するほうが効率的、という考え方が国際的に広まっています。
現在、日本からの輸出でこの制度が使える主な協定と輸出先は以下の通りです。
・CPTPP(TPP11)
→ カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナムなど全締約国
・日EU・EPA
→ フランス、ドイツ、イタリアなど EU 全域
・RCEP(アールセップ)
→ オーストラリア、ニュージーランド、韓国
(※ RCEP での輸出者自己申告は、現在この3か国に限定されています)
・日英EPA、日米貿易協定 など
このように、多くの主要国・地域で認められています。
バイヤーのおっしゃる通り、貴社が自ら「原産品申告書」を作成し、現地の税関に提出することで、関税の優遇を受けることが可能です。
2.自己証明の3つの条件
「自分で書類を作る」といっても、単に「日本製です」と書くだけでは通用しません。
以下の3つの条件をすべてクリアする必要があります。
条件① 製品が「日本の産品」であることを、データで証明できること
これが最も重要なポイントです。
貴社の食品が、協定で定められた「原産地規則」を満たしていることを、客観的なデータで示せなければなりません。
満たすべき基準は、主に次の3種類です。
・完全生産品(WO)
→ 日本国内で完全に収穫・生産された材料だけで作られている
・原産材料のみからなる産品(PE)
→ 協定の締約国の材料だけを使って、国内で製造されている
・実質的変更基準(PSR)
→ 海外の材料を使っていても、国内で大きな加工が加わり、製品の性質が変わっている
食品メーカーの場合、海外産の原材料を使うケースが多いと思います。その場合は「PSR」に当てはまるかどうかの確認が特に重要になります。
条件② 必要事項をすべて盛り込んだ申告書を作成すること
「原産品申告書」に決まった様式はありません。ただし、必ず記載しなければならない項目が定められています。
具体的には、輸出者の名称・住所、産品の品名、HSコード(6桁)、適用する原産地基準の記号(WO・PE など)を、英語で正確に記載することが求められます。
条件③ なぜ「日本製」と言えるのかを説明する「明細書」を作ること
申告書とは別に、「原産品申告明細書」という書類を作成する必要があります。
ここには、原材料の一覧表(BOM)や製造工程のフロー図など、申告内容の裏付けとなる具体的な資料を添付します。
「言いっぱなしではなく、証拠を示してください」ということです。
3.虚偽申告は必ず見抜かれる
部長がご心配の「虚偽申告」についてお答えします。
税関はこれを防ぐために、非常に厳格な「事後確認」の仕組みを持っています。
輸入後でも「抜き打ち調査」があります。
輸入国の税関は、輸入許可の後であっても、製品が本当に日本製かどうかを疑った場合、輸出者である貴社に対して情報の提供を求めることができます。
これを「事後確認」と呼びます。
回答できないと、関税優遇が取り消されます。
協定によっては、現地の税関が直接貴社に連絡してきたり、日本の税関を通じて調査が入ることがあります。
もし回答できずに証拠が不十分と判断された場合は、関税の優遇が取り消され、バイヤー側に追加の関税やペナルティが課せられます。
これは、バイヤーとの信頼関係を根底から壊しかねない事態です。
自己証明を行った輸出者は、その根拠となった書類(契約書、仕入書、原材料表、製造工程表など)を一定期間保存する義務があります。
保存期間は協定ごとに異なります。
・RCEP :作成日から3年間
・日EU・EPA :作成日から4年間
・CPTPP :作成日から5年間
書類が1枚でも欠けていると、税関調査の際に対応できなくなります。
「念のため全部とっておく」くらいの意識が大切です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
自己証明制度は、正しく使えば「手続きのスピードアップ」と「コスト削減」をもたらす、とても便利な制度です。
ただし、その裏には「自ら証明する責任」と、数年後にやってくるかもしれない「税関調査への備え」がセットでついてきます。
海外バイヤーとの商談では、まず「自社の製品がどの原産地基準に当てはまるのか」を正確に把握することから始めてください。
「うちの製品は原材料が複雑だけど、日本製と言えるのかな?」
「明細書には、どこまで企業秘密を書かなければならないの?」
こうした具体的なご疑問がございましたら、ぜひお気軽に当事務所へお問い合わせください。
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