食品メーカーの販売部長様、突然の海外バイヤーからの連絡、さぞ驚かれていることとお察しします。
「自社の食品に小石が混入し、海外の消費者が歯を折ってしまった」——これは、輸出ビジネスにおける最大の危機の一つです。
「責任は自社にあるのか」「多額の賠償を請求されたら会社はどうなるのか」と、夜も眠れない思いをされているかもしれません。
でも、まずは深呼吸してください。パニックになる必要はありません。
法的な背景と、今取るべき対策を、一緒に整理しましょう。
【この記事でわかること】
✔ 海外輸出で起きる「製造物責任(PL)事故」とは何か
✔ 損害賠償請求に備える「保険」の仕組みと重要性
✔ 今すぐやるべき事後対応と、将来を守る契約のポイント
1.PL(製造物責任)
まず、知っておいていただきたい大切なことがあります。
食品への小石混入は、日本でも海外でも「製造物責任(PL)法」上の「欠陥」とみなされる可能性がとても高いのです。
製造物責任(PL)法とは?
「製品が本来持っているべき安全性を欠いていた場合、メーカーは損害を賠償しなければならない」という法律です。
わかりやすく言うと、「食べ物に小石が入っていて、人がケガをしたら、作ったメーカーが責任を負う」というルールです。
さらに、輸出先が米国やタイなどの場合、日本よりも厳しいルールが適用されます。
それが「厳格責任(strict liability)」という考え方です。
これは、「メーカーにわざとやった、あるいはうっかりミスがあったかどうか」は関係なく、「製品に欠陥があり、被害が出た事実」さえ証明されれば、メーカーは責任を逃れられない、という非常に厳しいルールです。
加えて、国によってはこんな制度もあります。
・懲罰的損害賠償(ちょうばつてき そんがいばいしょう)
実際の損害額を大きく超える賠償金を課される制度です。
「見せしめ」的な意味合いもあり、タイでは実際の損害額の2倍まで、米国ではさらに高額になるケースも報告されています。
・クラスアクション(集団訴訟)
一人の被害者ではなく、「同じような被害を受ける可能性がある大勢の人」を代表して訴訟を起こされる制度です。
一気に賠償額が膨らむリスクがあります。
このように、海外でのPL事故は、会社の経営を根底から揺るがす事態に発展することがあります。
2.リスクの分散
「責任は自社にある」と感じておられるのは、誠実な証拠です。
ただし、法律上、海外の消費者が直接、日本のメーカーを訴えるのは、言語の壁や管轄の問題もあり、実はそう簡単ではありません。
多くの場合、まず現地のバイヤー(輸入者)や小売店が消費者対応の窓口になります。
しかし、それで終わりではありません。
輸入者は「あなたの製品のせいで損害を受けた」として、日本のメーカーに賠償を求めてきます。これを「求償(きゅうしょう)」といいます。
ここで重要なのが「海外PL保険」です。
販売部長様、貴社では輸出向けのPL保険に加入されていますか?
日本の国内PL保険は、日本国内の事故しかカバーしません。海外での事故には、特約または専用の「海外PL保険」が必要です。
この保険に加入していると、次のことが期待できます。
① 弁護士費用の負担
海外での訴訟対応は、現地の弁護士費用だけで数千万円かかることも珍しくありません。
保険は「争うための費用」もカバーしてくれます。
② 示談交渉の代行
経験豊富な保険会社が、貴社に代わって現地の輸入者や弁護士と交渉してくれます。もし現時点で未加入であれば、今後は最優先で検討すべき事項です。
事故が起きた今からでも、まずは自社が契約している損害保険会社や、商工会議所に相談して、現在の契約でカバーできる範囲がないか至急確認してください。
3.事後対応と契約の整備
クレームが来た今、取るべき行動は大きく2つです。
① 事実関係の確認と「記録」の収集
相手の言いなりになる前に、まず事実を確認しましょう。
・混入した小石は本当に自社の工場由来か?(製造工程や原材料の記録を確認)
・消費者への注意表示や警告は、適切に行われていたか?
「当時の最高の技術水準でも欠陥の発見が不可能だった」と証明できれば、責任を免れる「開発危険の抗弁」というルールもあります。ただし、これは非常に高いハードルです。
一方で、自社が「製造・品質管理において常に最善を尽くしてきた」というデータや記録(例:ISO9000シリーズの認証記録など)が整っていれば、交渉を有利に進めるための強力な武器になります。
② 輸出契約書の見直し(今後の備え)
今回の件が落ち着いたら、あるいは並行して、海外バイヤーとの「輸出契約書」を見直すことを強くお勧めします。
将来の事故に備えて、次のような条項を盛り込むことが考えられます。
・補償条項(インデムニティ)
事故が起きた場合、一定の範囲で輸入者にも責任や費用を分担させる取り決めです。
・責任の制限条項
賠償額の上限を「販売代金の範囲内」とするなど、自社の負担を限定する工夫です。
相手との力関係もありますが、こうした「自社を守るためのルール」をあらかじめ契約書に入れておくことが、とても重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
小石混入という一つのトラブルが、必ずしも会社の終わりを意味するわけではありません。
大切なのは、次の3点です。
① 現地の法律リスクを正しく理解する(特に米国・タイなどの厳格責任)
② PL保険という「防波堤」をすぐに確認する
③ 証拠を固め、契約書と社内体制を整える
まずは現地バイヤーに対し、誠実かつ慎重に「調査を開始する旨」を伝えましょう。
安易にすべての非を認めてしまう前に、必ず専門家に相談してください。
【お問い合わせはお気軽に】
「海外の消費者から請求が来たら、どう返答すればいい?」
「今の契約書で、本当に自社は守れているのか?」
こうした具体的な不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
食品の輸出に関する契約・手続き・トラブル対応については、行政書士として丁寧にサポートいたします。
海外PL保険に詳しいアドバイザーや、必要に応じて弁護士とも連携してご対応いたします。
貴社の信頼とブランドを、一緒に守り抜きましょう。
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