アメリカのお客様から、医学用標本の引き合いが来た。
ビジネスチャンスだと思ったのも束の間、「その標本、ワシントン条約に引っかかるかもしれない」と気づいた瞬間、不安になる方も多いのではないでしょうか。
ワシントン条約の対象となる動物の部位が含まれている場合、通常の輸出とはまったく違う手続きが必要になります。
もし書類に不備があれば、税関で貨物が止まるだけでなく、法律違反に問われるリスクもあります。
でも、ご安心ください。
正しい順番で、正しい書類をそろえれば、輸出はできます。
この記事では、販売部長として最低限知っておくべきポイントを、3つにしぼって、専門家の行政書士がわかりやすくお伝えします。
【この記事でわかること】
✔ ワシントン条約とは何か、どの「区分」に入るかの調べ方
✔ 経済産業大臣の「輸出承認」が必要になる条件
✔ アメリカへ輸出するまでの具体的な3ステップ
1.まず学名
ワシントン条約とは、絶滅のおそれがある野生動植物を守るための国際ルールです。
正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、英語の略称から「CITES(サイテス)」とも呼ばれています。
現在、日本を含む約170か国以上が加盟しています。
この条約では、規制の強さに応じて、動植物を3つの「附属書(ふぞくしょ)」に分けて管理しています。
■ 附属書Ⅰ(いちばん規制が厳しい)
絶滅の危険性がとても高い種です。
商業目的の取引は原則として禁止されています。
■ 附属書Ⅱ
今はまだ絶滅の危険はないものの、適切に管理しないと将来危うくなる種です。
政府の許可があれば、商業目的の取引も可能です。
■ 附属書Ⅲ
特定の国が自国の動植物を守るために、他国の協力を求めている種です。
ここで大切なのが、規制の対象は「生きている動物」だけではないという点です。
「医学用標本」や、その一部(血清・DNAなど)も対象になります。ですから、今回のような標本であっても、確認は必ず必要です。
調べる際は、日常的な呼び名ではなく、世界共通の正式名称である「学名」を使うようにしてください。たとえば「ヒョウ」ではなく「Panthera pardus」のような表記です。
2.経済産業大臣の輸出承認
日本からワシントン条約の対象物を輸出するには、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」という国内法にもとづき、経済産業大臣の「輸出承認」を受けなければなりません。
今回のように、アメリカから学術・医学目的での引き合いが来ている場合、特に附属書Ⅰに該当する種であれば、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。
① 商業目的ではないこと
学術研究や繁殖など、特別な目的に限られます。
② 科学当局がOKを出していること
その標本を輸出しても、種の存続に問題がないと、環境省や農林水産省などが判断していることが必要です。
③ アメリカ側の輸入許可書があること
附属書Ⅰの場合、アメリカ政府が発行した「輸入許可書」のコピーをあらかじめ日本政府に提出しなければ、輸出承認は下りません。これが最初の関門です。
附属書ⅡやⅢであれば、商業目的での輸出も可能です。ただし、その場合も経済産業省での申請手続きは必須です。
3.3つのステップ
手続きは「日本側」と「アメリカ側」が連携して進める必要があります。流れを整理しましょう。
▶ ステップ①:アメリカ側が輸入許可を取得する(附属書Ⅰの場合)
まず、アメリカの輸入者が、自国の管理当局から「CITES輸入許可書」を取得します。
取得したら、そのコピーを日本の輸出者(皆さま)に送ってもらいます。この書類がないと、日本での申請が始まりません。
▶ ステップ②:日本の経済産業省へ申請する
アメリカから届いた輸入許可書のコピーなどを添えて、経済産業省に「輸出承認証(E/L)」と「CITES輸出許可書」の申請を行います。
審査のうえ、問題がなければ書類が発給されます。
▶ ステップ③:税関に書類を提出して発送する
貨物を送り出す際、経済産業省から発行された書類の原本を税関に提出し、内容の確認を受けます。
ひとつ注意点があります。
ワシントン条約の対象物を扱える税関窓口は、専任の担当者がいる「特定の官署」に限られています。どこの税関でもよいわけではないため、事前に確認しておくことが大切です。
まとめ
ワシントン条約が絡む輸出は、手続きの数が多く、学名による正確な判定も欠かせません。
書類の不備がひとつあるだけで、アメリカの税関で貨物が止まってしまうこともあります。そうなると、ビジネス上の信頼にも影響します。
「この標本は輸出できるのか?」
「申請書類はどう書けばいい?」
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