「自慢の食品を海外へ届けたい!」その第一歩となる商談の席で、海外のバイヤーからこんな質問をされたことはありませんか?
「この商品、特定原産地証明書(EPAの証明書)は出せますか?」
「原産地証明書なら知っているけれど、『特定』がつくと何が違うの?」「うちは日本で製造しているから日本産に決まっているけれど、手続きが必要なの?」と、戸惑ってしまう経営者の方は少なくありません。
じつは、この「特定原産地証明書」は、単なる事務書類ではありません。
海外の取引先(輸入者)が支払う税金を安くし、あなたの商品の価格競争力を劇的に高める「最強の割引チケット」なのです。
この記事では、食品輸出の専門家である行政書士が、複雑な制度を「利益を出すための戦略」としてわかりやすく解説します。
最後までお読みいただければ、海外のバイヤーからの質問に自信を持って答えられるようになり、商談を有利に進めることができます。
【この記事でわかること】
・特定原産地証明書を持つことで得られる圧倒的なメリット
・自社の食品が「日本産」として認められるための3つの判定基準
・証明書を実際に手に入れるための具体的な3つのステップ
1.関税を下げる
まず、経営者として最も押さえておくべきなのは、この特定原産地証明書が「相手(バイヤー)の利益に直結する」という点です。
通常、海外へ食品を輸出する際には、現地の税関で「関税」という税金がかかります。
例えば、ある国に日本からお酒や調味料を輸出すると、現地で10%や20%の関税が上乗せされることがあります。この税金分だけ、現地での販売価格は高くなってしまいます。
ここで登場するのが「EPA(経済連携協定)」という国同士の約束事です。
日本とEPAを結んでいる国(現在、タイ、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、EU、米国など多数)に対して、「これは間違いなく日本の製品です」という証拠(特定原産地証明書)を提出すると、関税が「ゼロ」になったり、大幅に安くなったりするのです。
・バイヤー側のメリット:
輸入コストが下がるため、より多くの利益が出る、あるいは現地で安く売れるようになります。
・あなたのメリット:
性能や味が同じなら、関税がかからないあなたの商品のほうが、バイヤーにとって「安くて魅力的な商品」になります。
つまり、特定原産地証明書を発行できることは、「実質的な値下げを、自社の身を削ることなく実現できる」という営業武器なのです。
逆に、これが発行できないと、それだけで商談の土俵から降ろされてしまうことすらあります。
2.判定基準
「うちは日本の工場で、日本の職人が作っているから大丈夫」と思われるかもしれません。
しかし、ここが最大の落とし穴です。
特定原産地証明書を取得するためには、法律で定められた「原産地規則」という厳しいハードルをクリアしなければなりません。
判定基準には大きく分けて3つのパターンがあります。
自社製品がどれに当てはまるか、イメージしてみてください。
① 完全生産品(パーフェクトな日本産)
日本国内で生まれ育った食材だけで作られたものです。
例:日本で収穫されたリンゴ、日本近海で獲れた魚、日本の牧場で育った牛の肉など。 これは文句なしに「日本産」として認められます。
② 原産材料のみから生産される産品
「日本のもの」と認められた原材料だけを使って、日本国内で製造されたものです。
例:日本の小麦粉と、日本の水、日本の塩だけで作ったうどん。
③ 実質的変更基準(海外原料を使っている場合)
ここが食品メーカーにとって最も重要なポイントです。
海外から輸入した原材料を使っていても、日本で加工すれば、日本産として認めてもらえるというルールです。
具体的には、以下の2つのどちらかを満たす必要があります。
・「番号が変わる」変化(関税分類変更基準):
原材料と完成品で、世界共通の商品番号(HSコード)がガラッと変わるような加工をした場合です。
(例:海外産の大豆を輸入して、日本で「醤油」に作り替えた。豆と醤油では番号が違うので、日本産として認められる可能性があります)
・「価値が高まる」変化(付加価値基準):
日本での加工によって、製品の価値(価格)が一定以上(一般的には4割以上など)アップした場合です。
この判定を行うためには、まず自社製品の「世界共通の背番号(HSコード)」を特定することが不可欠です。
これが1桁でも違うと、すべてが台無しになってしまいます。まずは専門家や商工会議所に相談し、正しい番号を知ることから始めましょう。
3.手続きは3つのステップ
特定原産地証明書は、会社が自分で勝手に発行することはできません。日本において、法的に証明書を発行できるのは原則として「日本商工会議所」だけです。
初めて申請する際は、以下の3つのステップを踏むことになります。
スケジュールに余裕を持って動くことが、商談を成功させる秘訣です。
ステップ①:企業登録
日本商工会議所のシステムに「うちはこういう会社です」という情報を登録します。これは2年に一度 更新が必要ですが、登録自体は難しくありません。
ステップ②:原産品判定(ここが本番!)
「今回輸出するこの商品は、ちゃんと日本のルールをクリアしています」という審査を商工会議所に依頼します。
ここで、「製造工程図」や「原材料の仕入書」などの根拠資料を提出します。
商工会議所の担当者が納得できる資料を揃えられるかどうかが、ポイントです。
ステップ③:発給申請(チケットの発行)
審査を通れば、ようやく証明書が発行されます。現在はインターネットで申請し、PDFで受け取ることも可能になっています。
【注意:時間はかかります!】
初めての場合、準備から発行まで2週間以上かかることも珍しくありません。「船が出る明日までに欲しい!」と言っても間に合わないのです。商談が始まったら、すぐに準備に着手しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
特定原産地証明書は、単なる事務書類ではありません。
特定原産地証明書は「攻め」と「守り」の経営戦略です。
・攻めの戦略: バイヤーに「関税ゼロ」を提案し、他社を圧倒する。
・守りの戦略: 正しい根拠資料を保存し、将来の税務調査(検認)から会社を守る。
最後に、一点だけ付け加えます。
この証明書を発行した後は、その根拠となった資料を3年〜5年間保存する義務があります。
もし数年後に海外の税関から「本当に日本産だったのか?」と疑いがかかった際、証拠が出せないと、相手国から免税された関税を遡って請求され、取引先との関係が破綻してしまうリスクがあるからです。
「うちの商品で本当に税金が安くなるの?」「どんな書類を揃えればいいの?」と少しでも不安を感じたら、ぜひ一度ご相談ください。
行政書士は、単に書類を作るだけでなく、「どうすれば御社の商品が海外でより有利に戦えるか」を法務の側面から提案するパートナーです。
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